甲子園を沸かせた“ジャイアン”白根の現在 鷹詞〜たかことば〜 甲子園史に残る悲運のエースまずは写真をご覧いただきたい。福岡ソフトバンクホークスの白根尚貴、現在21歳。身長185センチ、体重88キロの恵まれた体格を誇る、将来のスラッガー候補である。 ピンとこない? では「ジャイアン」と言えば思い出すだろうか。そして、あの夏の出来事も――。 あれは甲子園史上最も劇的な“エラー”だった。 2010年8月11日、大会5日目の1回戦。島根県代表・開星高は仙台育英高を1点リードして最終回2アウトを迎えていた。しかし満塁のピンチ。それでも背番号1のエースは強気の直球勝負だ。鈍い金属音。詰まった打球は平凡なセンターフライとなった。「勝った」。エースは笑顔で拳を握ると早々に打球に背を向けた。もう会心のガッツポーズを決めていた。だがその瞬間、強烈な浜風が甲子園を襲った。ほんのわずか数センチだが、打球が押し戻される。するとまさか、中堅手のグラブからボールがこぼれ落ちた。2者が生還する逆転のタイムリーエラーとなってしまったのである。天国から地獄。ドラマはまだあった。9回裏、逆に開星高が一打逆転サヨナラの場面を作った。そして左中間へ大飛球。「今度こそ、勝った」。だが、今度は仙台育英高の外野手が見事なダイビングキャッチを決める劇的過ぎる幕切れ。それが余計に開星高の悲劇を際立たせたのだった。 その悲運のエースが“ジャイアン”白根だった。当時のプロフィールでは体重98キロとあったが、「じつは105キロありました」と照れ臭そうに白状する。投げては最速149キロの「重たい」豪速球、打っては高校通算40発のパワー。あの夏はまだ2年生だったが、すでにエース&主砲として多くの注目を集めていた。また、巨漢に加えて、見方によってはふてぶてしい面構え。あの問題のシーン。ゲームセットの前に大喜びしてしまった心の隙は確かに褒められたことではないが、そんな風貌も重なってか、当時同情の声は少なかったように感じる。 ジャイアンの面影がなくなったプロ入り後 ジャイアン」。日本人ならば誰もが分かる便利な例えである。巨漢で横暴な風情。だけど、どこか憎めないヤツだ。 白根もああ見えてじつは繊細な男なのだ。現在は甲子園当時よりずいぶん痩せた印象ではあるが、プロ1年目はもっと別人。“ガリガリ”だった。それは決してオーバーな表現ではない。 プロ野球生活の始まりは苦行僧のような毎日だった。11年のドラフト4位でソフトバンク入り。だが、ユニホームに袖を通すキャンプインよりも前の1月、右肘の故障が判明し手術を受けた。復帰に1年以上を要する、いわゆる「トミー・ジョン手術」だった。プロ1年目はファームでの出場実績もない。ひたすらリハビリの日々だった。 リハビリだから、決してハードな練習ではないはずだ。しかし、白根は日々どんどんと痩せ細っていった。100キロ超だった体重が78キロまで一気に落ちたのである。 「単調な日々にストレスを感じていたのもありますが、リハビリとはいえ練習量が僕にはきつかった。高校時代は練習らしい練習なんてしていませんでしたから。一から十までメニューが決められて、それをきっちり行うというやり方自体が初めてでした」 2年目、春季キャンプでの練習試合で初実戦。いきなり初打席でサヨナラ打を放つ、高校時代と変わらぬ勝負強さを見せ、応援に訪れた母親と互いに涙を流して喜んだ。だが、“ジャイアン”の面影すら失ったことでパワーは激減。打球が飛ばなくなってしまった。そこで昨年オフは体重アップを目的にトレーニングに取り組んだ。 「僕の魅力はやっぱり長打だと思います。体重が1キロ増えれば、飛距離が1メーター伸びる。実際そんなことあり得ないですが、それが僕の合言葉でした。3年目の今シーズンは90キロ前後。僕はこれがベスト体重だと思っています。高校の頃みたいに? いや、あれはないでしょう(笑)」今シーズンはまだ3軍が主戦場だ。独立リーグや社会人との対戦がメインだが、春先は特に好調で5月末までに9本塁打と結果を出した。練習試合では、かつて巨人で開幕投手も務めた東野峻(オリックス)からヒットを放ったのも自白根尚貴信になったという。ただ、現在の悩みは次の一発が2か月半以上も出ていないことだ。 「高校時代も29本目から30本目は時間がかかったんです。1本出れば気分が違うんですが……」 白根尚貴 プロで勝ち抜いていくために、やはり打撃で勝負したいという。子供の頃から巨人ファン。憧れた選手は清原和博氏や二岡智宏氏だった。右方向にも大きな打球を飛ばす。そんな打者像が理想だ。 後輩に期待するインパクトのある試合白根尚貴 母校の開星高は、今夏、白根が3年生の時に甲子園に出場して以来3年ぶりに“聖地”に戻ってきた。大会5日目の第2試合に登場し、大阪桐蔭高と激突する。 「じつは僕が2年の夏、そして3年の夏も初戦は大会5日目の第2試合だったんです。スゴイ偶然ですよね。相手は強豪ですから厳しい戦いになると思います。でも、もし敗れたとしても、インパクトのある試合をしてほしい。2年夏の仙台育英に負けた試合、じつはホームランを打っていますからね。3年ではこの夏優勝した日大三に8対11で負けましたが、僕らのチームの方が相手より多くヒットを打ったし(開星15安打、日大三13安打)、僕自身も4安打打ちました」 インパクトならば、あのガッツポーズだって……。 「先日、『アメトーーク!』(テレビ朝日)で紹介されたらしいですね。僕は見ていないんですが、周りからたくさん連絡が来ました。あまりいいシーンではなかったけど(笑)。でも、たくさんの人の記憶に残るシーンとして印象づけられたのなら、それはそれで悪いばかりじゃないですよね」 先日の3軍戦を観に行った際、ボテボテの内野ゴロでも一塁へ全力で駆け抜けてみせた。何ひとつ気を抜けない、それがプロ、と白根は言った。“ジャイアン白根”伝説〜プロ野球編〜はこれからである。白根尚貴
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