ウダウダ言うな。川崎宗則=ムネリンの本を読めっ!書評・逆境を笑え まず最初に断っておくが、私は川﨑宗則(ブルージェイズ)のファンではない。実際に彼を取材した記者の一人にすぎないし、過去に川﨑賛歌のような記事(帰ってきた川﨑宗則とブルージェイズの絶妙な関係 参照)を書いたことはあるものの、「I love Munerin!」とはひとっことも言ってないことを付け加えておく。 これは“川﨑宗則・激論集”である。 我々の世代にとって、“激論集”と言えば矢沢永吉の「成り上がり」なのだが、「逆境を笑え」には、永ちゃんとはまた違う種類のメッセージが―ハンパなく―ある。 「恥をかくことよりもやろうとしないことのほうが恥ずかしい。(中略)どんな痛みなのかも知らないくせに、どうしよう、どうしようと脅えていても結局は前に進めない」 「人間、あっという間に人生終わるかもしれないのに、いろんな人に会って、いろんな話を聞いたほうが、楽しいでしょ」 「一人が好きってことは、人が好きなんだって思う。(中略)皆でいる時間を大事に思うから、一人になる時間も大事だと思える」 「真っ暗だったのが、光がちょこっと見える。具体的には言えないんだけど、光の見える方向がわかったら、後はそこに向かって、犬掻きだろうがクロールだろうが、匍匐前進だろうが、進むだけ」 もうこれだけで、全ての人生相談の答えが出ているような気がする。そうかと思えば、いわゆる「川﨑節」的な独特の考えもある。 「よくいるよね、他人に厳しい、自分にも厳しいという人。おれは他人にも甘いし、自分にも甘い。あまり、そういう価値観に囚われて生きたくないんだ」 「好きなのは、不安定。俺、安定感ゼロの人間だから。生き方に安定感は必要ないんだよ」 「ヘタクソなのはわかってたじゃん。それはもう、認めてる。だったら、やるしかない。凹んでるんだけど、燃えてくるんだよ」 いわゆる“リップサービス”のセンスがある川﨑は、取材者にとっては油断ならない相手である。例えば今年のキャンプの囲み会見で、こんなやり取りがあった。 ―明日はチームのオフ日ですが、何をなさるおつもりですか? 川﨑「明日ですか?うーん、そうね、明日は秘密特訓します」 ナガオの心の声『ウソつけ。疲れてヘロヘロのくせに』。 ―秘密特訓って何をするんですか? 川﨑「えっ?秘密だから言えないよ」 ナガオの心の声『ウソつけ。突っ込まれた時のことを考えてなかっただけのくせに』。 ―そりゃそうですね。すいません。 川﨑「まあ、そうね、ビーチで特訓します」 ナガオの心の声『あーあ、言っちゃった』 誤解のないように言っておくと、本に書かれていることは(私の知る限り)真実だ。少年時代や高校時代、ホークス時代の逸話の数々は、私も聞いたことがある。そして、そういう話をする時の彼は “リップ・サービス”の川﨑ではなく、剥き出しになった生身の人間だ。 「強がるということは、弱さを見せないこと。弱さを見せないということは、本当は弱いということ。でも強がって、弱さを外に見せない。もちろん、誰かにわかって欲しいと思うこともある。誰もわかってくれなければ、辛いときもある」 「上辺だけでいいんだよ。上辺だけ褒めてくれれば十分。だって、みんなが心から俺のことを考えて、本心で褒めてくれたりしたら、逆に迷惑だからやめてくれって思うよ。(中略)どうせお前は口だけだ、なんて言いながら、実は嬉しかったりする。そうやって上辺だけでも褒めてくれる人がいるから、強がれるんだ」 「どんな世界なんだ。どんなヤツらが待ち受けているんだ。俺の人生、どういうことが起きるんだ。そんなことを考えたら、眠れなくなった。だから必死に体を動かした。毎日が、恐怖との戦いだった」 もしも川﨑がマイナーでアメリカにおける野球人生を終えていたのなら、今、このタイミングでこの本は出なかっただろう。でも人生なんて、そんなもんだ。この本に書かれているように、川﨑はいつでも逆境を笑えたわけではない。凹んだり、死にたくなったりしながらも、野球選手として生き抜いてきたのだ。そして、生き抜いてきたからこそ、ホークスの川﨑があり、WBC日本代表の川﨑があり、そしてブルージェイズのカワサキがあるのだと思う。 川崎宗則 「よく一軍に上がれれば成功、二軍のままだと失敗とか、メジャーで通用した、マイナーだから通用しなかったと言われる。でも、世の中の人が言う成功と失敗って、よくわからない。(中略)今を生きていれば、いいこともあるし、よくないこともある。よくないことがあっても、次にいいことがあるようにまた頑張ればいい。そもそも、人生の成功とか、人生の失敗とか、生きている限り、そんなの、俺はないと思っている」川崎宗則 去年、メジャーリーグで控え内野手に甘んじている川﨑の取材をした私に「日本に帰ってくりゃ、まだまだレギュラー張れるのに」と苦言をこぼした知人がいた。私は彼に対して「いや、違う。そういうことじゃないんだ」と言う気も起きなかった。なぜなら今、川﨑が呼吸している場所は、彼がかつていた場所よりも厳しくて、激しくて、その分、楽しいからだ。彼が今いる場所の厳しさや激しさを実感できない人には、何を言っても無駄だと思った。そして、そうなった責任の一端は、私のような仕事をしている人間にあるのだろうと反省した。短い新聞記事やコラムでは、川﨑の生き方を理解して頂けなかった。だからこの本がもっと、もっと、世の中の人に伝わればいいと思う。川崎宗則 最後になったが、挫折だらけの野球人生をネガティブになることなく、軽妙かつ力強く語られたのは、構成者・石田雄太氏の力によるところが大きい。日本でもアメリカでも人生訓を書き連ねたような本はよく売れるらしい。昨今ではビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスなんかの言葉にはとても勇気付けられるという。「逆境を笑え」がその類いに入るのかどうかは別にして、この本を読めば明るい気持ちになれるし、とても勇気付けられる。 そういう意味で、私はこの本の作成に携わった人たちにとても感謝している。 そして、そうだよ、こんなことが起こるから人生は面白いんだ、苦しいことがあるからこそ楽しいんだ、と改めて思える一冊との出会いに、心の底から「ありがとう」と言いたい―。川崎宗則
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